成功と幸せ

10月14日(土)にひかえている 「和楽会」という会のために、うちの稽古場の皆さん一人ひとりと作品を制作している。

組太鼓を中心とした和太鼓に取り組んでいる「海山(かいざん)」と名付けた
メンバーの太鼓を象徴した「海山」という作品に続いて、
今回は、郷土の太鼓を中心とした和太鼓に取り組んでいる「波椿(なみつばき)」と名付けた皆さんの太鼓を象徴した「波椿」という作品を創り上げた。

これは、この地方の「播州音頭」をモチーフにした作品だ。
音頭とは、20分程度の物語形式で、
赤穂浪士や各地の民話や近所の家の騒動など、
この地の人々が関心を抱いてきた題材が織り込まれていて、
いまは、それが盆踊りの音楽として受け継がれている芸能。

その中のひとつの作品をモチーフに、
現代的な要素も取り入れつつ、
メロディ楽器は一切つかわないで、声と太鼓だけで、
人間の人生を描くことに挑戦した。

1人の女性が嵐の中、海で溺れていた男性と運命的に出会い
その介抱をしていて、彼に恋をしてしまう。
しかし彼は遠い地の人。
彼のもとに通いつめるが、恋はうまくいかない。
子を宿していた彼女は狂ってしまう。

…というのが、この芸能のもととなった民話のストーリー。

実は以下の映像の後半部分に使われている音楽は、
この半狂乱のシーン、
つまり女性の心のなかの闘いを描いた部分だ。

実際には、10人で演奏するので、
もっと混沌とした世界になる。

ちょうど、国と国との争いのニュースに、
心を痛め、無力感に襲われ、
ものを創るエネルギーがなくなりそうになっていた私。

そして、過去に見てきた人と人との争いや病に傷つき、
過敏になり、少しでも火種と思われるものがあれば、
水をかけるようになっていた自分。

そんな自分に、立ち向かうために
この主人公の女性が、自分自身との闘いから解放され、
最後にきっぱりと立ち上がる
シーンを付け加えた。

男性のことを愛するという愛情を更に上回る、
ずっと広く深い愛情を手に入れ、
我が子を背負い、その子のために、
世界に向かって子守唄を唄うのだ。

とても優しく美しく尊い、
そして当たり前であって
当たり前でなくなる日が来るかもしれない世界だ。

その過程で、わたしは、
この仕事をするならば、世界を我が子と思い、
それを背負って生きる覚悟が必要なのだと
稽古場の人たちから学んだ。

いまの私に出来ることは、
作品のなかに人の理想郷を問い続けることだ。

いつの日か、その理想郷は完璧になり、
そして、現実になるかもしれない。

作品作りを通して、人が、人を愛し、
我が子を愛するような心を誰に対しても持てるならば、
この世はもっと大人になるだろうと考えたりもした。

いや、大人に…という言い方はおかしいかもしれない。

子どもたちの方が、
平和の尊さを知っている場合もある。

子どもたちの方が、
サナギから美しい蝶に変身する神秘的で驚くべき瞬間や、
自然がとても不思議で、
ものすごい力を秘めていることを良く知っていたりする。

稽古場に来ていた子どもたちに、
「将来、なにになりたい?」と聴いてみた。

小学校1年生の男の子は「科学者」

小学校4年生の女の子は「重機を動かす人」

そのお友達は「ペットショップ」

小学校6年生の男の子は「ものを創る人」

その兄弟は、「つり人」。

中学生の女の子は「農業」か「建築士」。

子どもたちは、とてもキラキラとした顔で、
夢を語ってくれた。
心が明るくなるようなエネルギーを頂いた。

子どもも大人も、
こうやって夢を語れる社会とか、
思い描いた夢を実現させていける場所とか、
時々、ほっと休みに来れる場所とか、
力強く背中を押してくれる場所とか、
そんなものが創れたら嬉しいし、
私たち大人は創らなくちゃいけないな。

たぶん、人は群れになって生きるもので、
孤独であっては行き詰まってしまう。
みんなで自分の出来ることを出し合って創るのだ。

これもまた、稽古場の人々から教わったことだ。

一方、1年前のある日のこと、私はある人に
「でも、あなたは成功していない」と言われた。
私は、何度ゼロになってもあきらめずに生きて来て、
ただ、この場にあることが幸せだったので、
「え?」と思って衝撃に胸がガクンとなった。

それまで、成功なんて考えた事もなく、
「大成功!」と叫んでいるのは、
ケーキが焦げずに焼けた時くらいの感覚だったのだ。

そのうち、
その人は成功を夢みるあまり、
現実とのギャップに悩んで
前に進めなくなってしまった。

私に対する言葉は、
その人自身の問いでもあったのだろう。

そして、その人だけでなく、多くの人が、
あまりにも早く変わり続ける今の社会のなかで、
迷い、歩けなくなっているのだと知った。

そこから、
「成功」って何だろう?と考え続けた。

世の中で評価される「成功」とは一体、何なのだろう。
成功するために注ぐエネルギー、
成功していないと思う挫折、
成功しているかどうかは、
誰がどんな物差しで評価するのか。

人間界で良く知られていて、
成功していると有名な人々のことを、
私の目の前の、このトカゲは知っているのか?

そう思うと、人はなんて小さなところで、
立ち止まってしまうのだろう、と思えた。

人間界に限って言えば、
いま、創っているものや、やっていることが、
真の意味で人々や世界のためであったかどうか、が
評価されるのは、自分が死んだ後ではないだろうか。

自分が死んだ後、自分が育てた人々が、
世界を良くしようと生きたり、
自分が創ったものが社会の役に立っているなら、
その人は、成功したと言えるのではないか。

本当の「成功」とは、
そこにあるのか?

いま、この時代に良いとされていたものも、
時間が経つうち、評価が変わることも沢山あって、
生きているうちには分からないことだっていっぱいあるのだ。

ならば、目の前の一人の人と向き合って、
喜びを生み出せる、
そういうことを、ひとつひとつ積み上げることしか
できないのではないか。

一年かかって、ようやく、私は
その人の問いに答えを出す事が出来たのだった。

私は今、出来ることを、
ひたすらにやろう。

争いや病に立ち向かう
たった一つの方法は、そういうものを知りつつも、
そこにとらわれず、むしろ、それを捨て去り、
そんなものはこの世に存在しないのだと思い、
子どものようにただ無心に「生きること」だと、
今はそう思っている。

ちなみに、私の幼い頃の一番最初の夢は、
スーパーのレジのお姉さん。

いまの夢は、その頃と全くちがうけれど、
きっとすべてのことに、
同じだけの価値があると思っています。

そして、もしも、
立ち止まっている多くの若い人たちに会えるのなら、
私に成功について考えさせてくれた人の言う通り、
世に言う成功への道を歩いくのも、意味のあることと
思えるようになり、トカゲには理解されずとも、
人間界で私が出来ることがあるのなら、とことんやろうと
思っています。

さてさて、そんな試行錯誤を経て
立ち向かっているこの舞台は、
うちの稽古場の本当にいろいろな方の人生が詰まった
手作りの舞台。

私たちの取り組む組太鼓を創った創始者の方から、紹介していく
「伝承者にきく」も同時公開されます。
遠く長野県からお迎えする御諏訪太鼓の山本麻琴さん。
2歳半から和太鼓に向き合って来た人生とは、
どんなものだったのか。
皆さんと一緒に聞いてみましょう!